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('A`)はただの童貞のようです 10話

――鏡に映るのは、水に濡れた己の顔。
額から両眼を経て、頬の半ばまでを縦に走る傷跡。
そして、口の両端から耳に掛けての、未だ癒着せず、体液の滲み出る裂け目。

(   )「……」

それを指でなぞれば、未だ塞がらぬ傷を縫い止める糸が擦れ、微かに音を立て、

――アタックーアタックーナーンバー ゼロゥワン!

過去を思うより先に、仕事用の携帯電話が着信を知らせる。
それを機に思考を切り替え、仕事着へと着替える。

( ∵)「その場で処分すれば手間も掛からんだろうに……」

玄関を出る時、意せず漏れたその言葉は、袋の内のせいか、酷く篭って聞こえた。

~~~

( ∵)「……」

――散々たる有様と云うのは、まさにこの事を言うのだろう。
数多の者が倒れ伏し、運悪くそのフロアに駐車していた車に無傷な車は一台も無い。
車の大半のガラスは割れ、酷い物になるとボディ、が完全に拉げてしまっている。

( ∵)「……」

ざっと見て分かる限りで、軽傷者は二十。
通常ならば入院の必要がある者は、その倍と言った所だろうか。

だが、目の前で気絶した者の搬送を続ける者達に、重傷者を気遣うような素振りは無い。
両の手足を厳重に拘束し、猿轡を噛ませた後、廃品でも扱う様に軽ワゴンの後部ハッチより中へと放り込み続ける。

コレもまたいつもの事だ、と慣れてしまった自分。
何の感慨も沸かず、気付けば彼らを物として見ている。

( ∵)「……フゥ」

ミ,,゚Д゚彡 「……ビコーズ、ちょっといいか」

声に振り返れば、この場に似つかわしくない、薄汚れた白衣を羽織った同僚。
一週間は剃っていないであろう不精髭と、手入れのされていない、鳥の巣の様な髪。

そして、シャツを内側より押し上げ、その襟から溢れ出す胸毛。
いつもの事ながらむさくるしい外見だな、と思う。

( ∵)「フサか、どうした」

ミ,,゚Д゚彡 「検査が終わったんで一応報告をな。全員、陽性だ」

そう言いながらボールペンで頭を掻くフサが手渡してきたのは、検査用紙の束。
被験者一人に付き一枚。しかも、フサの体毛を紙の上に散りばめたかと思うほど汚い文字の羅列。
そして、本物の体毛の塊。直径およそ12cm。

コレを解読するのも一苦労だな、と溜息を漏らしながら毛玉を書類の上から払い落とす。

( ∵)「やはり、と云うべきであるか……」

ミ,,゚Д゚彡 「ただ……幸いと言うべきなんだろうな。重度の進行が見られる奴は、今の所無しだ」

( ∵)「……コレだけの数で、か」

既に施設へと搬送した者は三十近く。
そして、ここに転がっている者や、入り口に転がっていた者を加算すれば、六十から七十になるだろう。

――今回の様に素人童貞の群れが出現した事は数度ある。
だがその群れには大抵一人、重度の者がボスとして存在していた。

強き者が群れを統率する。
其れは人の理から外れ、獣と等しき思考となった者達にも言える事。

しかし――今この場にソレは存在しない。
ボスの素人童貞が逃走した可能性も考えられるが、この場所に残った香りがソレを否定する。
そして、一つの例外を示していた。

ミ,,゚Д゚彡 「餌が、いるんだろ。しかも」

( ∵)「そいつがボスの役割も果たしている。違うか?」

――女の身体のみを知った童貞は、ひたすらに女の肉を求める。
女と交わる事でしか潤せない、強い渇きを覚えるが故に。

女を知ると同時に、本能が気付くのだ。
ソレを手放す事など出来ないと。

手放せば、待つのは自壊なのだと。
己の身が、深き奈落の底へと落ちてゆくのだと。

故に、素人童貞は餌を求める。
彼等は、汚濁に塗れた餌の陰部と交わる為ならば、プライドなど容易く捨て去るのだ。

ただ、惨めに倒れ伏す彼らに、プライドがあったかどうかなど知る由は無いが。

ミ,,゚Д゚彡「……こんなキッツイ香水をつける男がいるなら、話は別だがよ」

( ∵)「だとしたら女は……」

この者達を屠ったのはドクオ達。
彼等が、女が逃げるのをみすみす見逃すだろうか。

( ∵)「……考えるまでもないか」

間違いなく、見逃しているだろう。
彼らは童貞だ。攫ってレイプする様な腐った度胸は無い。

下着の一つも見せられたら容易く道を開くだろう。
中腰のまま。

ミ,,゚Д゚彡 「……そんな女がいるなんて、認めたくねえがな」

無精髭をなぞりながら、フサが顔をしかめる。
数十人の男と定期的に交わる女性がいるなど、夢見る童貞であるフサからすれば、悪夢に等しい筈。

( ∵)「フサ、こいつは仕事だ。女に幻想を持つは勝手だが……」

ミ,,゚Д゚彡 「分かってるけどよ……女の人ってさ、こう、もっと清らかな……」

( ∵)「いい加減に思考を切り替え……」

懐の内で、小さな振動。
振動の発生源である携帯を取り出し、それを耳に当てながら、妄想を垂れ流すフサへ呆れた視線を送る。

『やっと繋がったんです!ビコーズさん!大変なんです!』

通話を開始すると同時に聞こえたのは、慌てふためいた声。
それと共に聞こえる、通話相手の付近を慌しく走り回る音と悲鳴。

( ∵)「……何が起きた?」

『あ、あの!その!えと!』

通話相手は余程混乱しているのだろう。
股間に電動マッサージ器を押し当てられた様に声を震わせ、歯を鳴らしている。

『あああああああの!あば、あばばばば暴れてるんです!』

( ∵)「……」

――予想できる事は一つ。
己に連絡を入れたのはいい判断だ。

( ∵)「……すぐに向かう」

『すすすぐにおねがいなんです!』

返事を聞いた時、既に自分の足は窓枠に掛かり、

ミ,,゚Д゚彡 「……どうかしたか?」

( ∵)「緊急事態だとさ。後は頼む――――I Can Fly!」

フサにそう告げた後、己の体は、怪しげに輝く満月の下で宙を舞った。

――座都壇丹という県の中央に位置する町、毘津府。
町の中心部はビルが立ち並んでいるものの、郊外に出れば田畑が広がっている。
オタ系の店と童貞が多い事を除けば、地方の県庁所在地にも似た町。

――その町には一つの異質があった。
ごく一部の者を除き、住民はその事を知らない。

――それも仕方の無い事だろう。
異質は、廃棄物処理場の地下深くに存在していたのだから。


第十話『Because』


( ∵)「……」

――落下の感覚。
何時まで経っても慣れないそれに身を委ねつつ、階数を示す数値を眺める。

この施設の地上部では、職員が少々慌しく駆け回ってはいたものの、さしたる混乱は見られなかった。
其れはつまり、暴れている存在は未だエレベーターが向かっている、階下に滞在しているという事。

だが、ここに駆けつけるまでに要した三十分ほどの時間。
その間に、何人死んだだろうか。どんなに幸運が味方したとしても、死傷者無し、という訳には行かないだろう。

そんな事を考えている内にエレベーターが停止し、その鉄扉が開き――

( ∵)「……酷いな」

――己の眼が映した光景は、記憶にある病院の通路に似た、薄汚れた白い通路とは違っていた。
その光景は、昏い紅花の咲き乱れる様。爛れた柘榴がたわわに実る、悪趣味な果樹園の様。
出鱈目に、何の法則性も無く発生した奇妙な盛り上がりは、肉と臓腑、その破片。

昏い紅花の花芯にも見えた、薄く黄ばんだ白の片は骨。
その光景は、萎れた牡丹の花を散りばめたかの様。

そして、流れ込んだ大気は、生温い鉄の香り。
それは、この眼前、フロアを出鱈目に塗り尽くした、命を司る流体、血液、血潮の香り。

ただ、理解する。
圧倒的暴力を持つ者に、成す術も無く食い尽くされたか、と。
徒に、食欲と性欲の区別がつかなくなった者に食い散らかされたか、と。

( ∵)「……時、既に遅しと言ったところか」

口調に哀愁を漂わせた所で無駄な事だと理解している。
薄布一枚下の己の頬は喜悦に歪んでいる事だろう。

嗚呼、何と歪な。
何と疎ましく、卑しき性質か。
本当に、

( ∵)「我慢、出来そうに無い、な」

紅に染まった光景が、己が理性を削ぎ落とす。
最も身近な流体の芳香が、己の心を滾らせる。

自然と、指が虎爪の如く曲がり、痛い程に屹立し、股間部の布を押し上げる己の逸物を掴む。
香りに誘われる様にエレベーターを出ると、己の口漏れた熱い吐息に、身体が震えた。
求めている。己は求めている。

心の底から、己がこの手を赤黒い鮮血で染めたいと願っている。
そうすれば思い出せる。その瞬間だけは鮮明に思い出せる。

大事な人を。
大切で、守りたくて、でも、気付けば壊してしまっていたあの人の事を。

( ∵)「あぁ……」

自然と、声が漏れる。
また会える。

また思い出せる。また君に会える。
ああ、早く思い出したい。

あの時の紅に染まった君の顔を。
衣を穿ち、皮膚を裂き、脂肪の層に割り入った感触を。

自分の身に何が起きたのかさえ理解できていない君の表情を。
肉を断ち、血管を千切り、狭き肋骨の隙間へと指先を捻じ込み、心の臓を抉り貫いた感触を。

全てを理解し、声の代わりに、抉り抜かれた肺腑から溢れる血液を口から吐き出した君を。
己の全身に降り掛かった、身悶えるほどに熱かった君の血潮の温度を。

――その先に、何かがあった気がする。
これらより、もっと、だいじな、なにかが。

だが、未だ思い出せない。
この手を赤黒く、斑に染めた時、思い出していた事だけは覚えているのに。

今度こそ、思い出せるかもしれない。
そう考えるだけで昂りは強くなる。

ああ、早く捻じ込みたい。この指を、肘を、膝を、爪先を。
思う存分に肉へと捻じ込み、柔らかさと熱を堪能したくて堪ら――

( ∵)「……」

――感覚が一つの気配を掴み、思考が止まる。
血と臓腑の飛び散る只中にて息荒く、身を震わせながら動く者の気配。

直後、先の曲がり角より近づく足音を耳が捉える。
胸に去来したのは、失望。

( ∵)「……否」

呟きの後、気配の主が姿を見せるより先に、己を強く自制。
歯が軋みを上げる程に食い縛り、衝動を抑え、曲がり角から現れた足音の主を迎える。

(;><)「あ、あぁ……ビコーズさんなんです!助かったんです!」

( ∵)「……」

生存者に只一度、頷きを返す。
声は、出せない。

一声発すれば、その途端、衝動から枷は外れてしまうのだ。
声を出せば、己は目の前で震える青年を、至極呆気なく殺してしまう。

(;><)「ホント怖かったんです!みんなやられちゃって、ボクは何も出来なくて……」

( ∵)「……」

己が感情など微塵も気付く事無く、眼前の青年は只、自身の無力さを悔やむ。
が、ソレも仕方の無い事なのかもしれない。

同僚の返り血を浴び、糞尿を垂れ流し、只逃げ回ることしか出来ずにいた無力な存在。
本当に、無力だ。無力極まりない存在だ。

( ∵)「……」

振り向かぬままエレベーターの方を指差し、顎で促す。
この様なか弱き存在は、この状況では邪魔にしかならない。

(;><)「で、でも……」

( ∵)「……往け」

発したのは、ただ一言。その一言が、理性を軋ませる。
枷を外さんと、己が内で暴れ回る。

一度、己の歯が激しく擦り合う音が鳴る。
直後、

「ィイイイイイイアァァァァァァッ!」

それより遥かに大きな大気の震えが、その音を掻き消す。
音の源は、青年の背後。

( ∵)「……」

――即ち、己が視線の先。
油の切れた機械仕掛けの様に、ぎこちなく青年が振り返り――

(;><)「あ、ああ……」

<ヽ゚p゚>「ファァァァァァブルスコファァァァァァッ!」

そこには、獣がいた。
大きく前へと傾いた体躯の背面は、不自然な盛り上がりを見せる。
耳の下まで裂けた唇、その間から覗く歯は肉食獣と同等の鋭さを持ち、口を閉じて尚、唇が合わさらぬ程に長い。

元より体格に恵まれていたのだろうか。
破れ、赤黒く染まった拘束衣から伸びる腕と脚は、己と比較しても何ら遜色の無いの太さ。
指先から伸びる太く分厚い爪から滴る血は、壁に塗りたくられた物と同じと見て間違いないだろう。

<ヽ゚皿゚>「ィイイイイイイアァァァァァァッ!」

(;><)「ひっ……ひゃぁぁぁぁぁっ!」

――獣が跳ねる。
背後に迫る存在に気付き、恐怖に硬直した青年と獣の距離は、瞬きほどの時間で零に等しくなる。
青年の頚椎へと振り下ろされた右腕の一撃は、必当、且つ、必殺。

――だが、其れは通常であればの話。
己の身は既に獣の側。

( ∵)「――シャァッ!」

己が右腕の先、撓められた五指が獣の突き出たエラに指を掛け、その顔を身体ごと捻る。
直後、腰を落としつつ左足にて震脚、後、全身を捻り、左掌底を獣の脇腹へと捻じ込まんと突き出す。

が、掌が触れたのは獣の足裏。
突き出した掌を蹴り、獣は後方へと大きく飛び退く。

(;><)「こここここいつなんです!」

( ∵)「……貴様は早く逃げろッ!」

(;><)「で、ででででもっ、その」

(#∵)「……」

煮えきらぬ青年の態度に苛立ちが募る。
その結果、己は気付けば青年の奥襟を掴み、意を得ず慌てふためく青年の態度など関係無しに、

(#∵)「どっこいしょー!」

(;><)「ひゃぁぁぁぁー!」

ボーリングの玉を放る様に、後方、エレベーターの方へと投げ捨てた。
そして、血肉に塗れながら滑走する青年が壁に衝突するのを確認した後、ゆるりと向き直り、

( ∵)「さぁて……」

既に加速した獣を見据えながら、下ろしたままの両腕の先、両掌の五指を虎爪の如く撓める。

( ∵)「報いは、受けてもらわんとな」

<ヽ゚皿゚>「ルゥゥゥゥアァァァァァッ!」

言い終えると同時に獣の身体が翻り、右腕が唸る。
構えも糞も無い、大振りな力任せの攻撃。だが、それは欠陥を補って余る程に速い。

あからさまな、頚椎を狙ったそれの先端が届くより先に、左裏拳にて手首を弾く。
直後、初撃の対角より獣が左腕を突き上げるが、その先端は空を裂く。

己が身はその懐の内。
獣の左腕は、踏み込んだ己の身を抱くかの様に包み込む。

<*ヽ゚∀゚>「……ウホッ」

(*∵)「……やらないか」

視線が、重なる。
獣は渇望する様に、己へと熱い視線を注ぐ。
己もまた、恥じらいを過度に持ち合わせた乙女の如き視線を返す。

ああ、この様はまるで数ヶ月ぶりに出会った恋人の様ではないか。
言葉を忘れたかの様に見つめあい、強く掻き抱くなど、まさにそれではないか。

<ヽ゚Д゚>「アァァァッ!」

沈黙は一瞬。
獣は感傷などお構いなしに、大きく口を開き、その孔より溢れる唾液がスーツに滴らせる。

――己を求めるか獣よ。
ここにいた者を欲するままに慰み者にしておきながら、それでも足りぬと云うか。

ならば、喰ろうてみよ。
己の肉を裂き、全身に血潮を浴びながら喰らってみろ獣よ。

( ∵)「……出来るものならばな」

獣の臍に押し当てていた一本拳を捻りながら、全力で震脚。
腹筋の奥、臓腑を押し潰さんばかりに捻じ込み――

( ∵)「ッ!?」

――手応えに違和感。
布団を殴り抜いた様な感触と共に、鋭い、風切音。

反射的に両腕を掲げた直後、腕の外側に鈍器で殴打されたかの様な衝撃。
それに気を掛けるより先に、顎下より迫る圧に気付き身を反らす。

眼前を通過したそれが獣の爪先だと気付くと同時に、胸に予想外の衝撃。
獣のもう一方の足、その踵が己の胸板を捕らえていた。

(;∵)「ゴェッ……」

肺から空気が無理矢理押し出され、思わず苦呻が漏れる。
コレを獣は好機と見たのだろう、

<ヽ゚∀゚>「アァァァァ……」

人の脂で黄ばんだ牙を誇示する様に、裂けた口を大きく広げ、己が体勢を戻すより先に、迫る。
そして、五月雨の如く、出鱈目に、あらゆる方向から繰り出される打撃と爪。

獣が哂う。獣と相対する己が餌に成り果てたと言わんばかりに。
繰り出される度に速度は上がり、鋭さを増して己のスーツを切り刻む。

だが、身を刻むには至らない。
幾度放てども、皮膚にすら至らない。

それでも獣は哂い続ける。
己が反撃しない事を、避けるので精一杯なのだと感じているのだろう。
己を、必死で逃げる弱者なのだと感じているのだろう。

( ∵)「――甘い、としか言い様が無いな」

口内での呟きと共に、薄布の下で己の口が歪む。
獣はそれに気付かない。喜悦の表情を浮かべたまま、ひたすらに攻撃を繰り出し続ける。

故に、己は哂っていた。獣の滑稽さを、嘲笑っていた。
人の心を捨てて尚、己の領域に到れぬ獣を嘲笑っていた。

<ヽ゚皿゚>「イィィィ……」

――獣が、口の端を吊り上げたまま牙を軋ませた。
その歯軋りは焦れてのものか。
それとも、喰らう欲求が膨れ上がっているのだろうか。

どちらにしろ、来るだろう。
獣が最も得意とする攻撃が。

獣は己の血肉を渇望している。
己もまた、獣の血肉を渇望している。

互いに、胸を焦がさんばかりの想いを募らせる。
業の深い、穢れ、爛れた欲望を胸に抱く。

故に、互いに哂うのだろう。
笑顔というのは――――獣が牙を剥く表情と同じなのだから。

<ヽ゚皿゚>「ガァッ!」

獣が大きく背を反らした後、限界まで開いた口を身体ごと振り下ろす。
その内に並び立つ鋭き牙が、顔面を庇う様に上げた己が左腕に突き立つ。

だが、そこまで。
半ば程まで肉に身を埋めた牙は、それ以上動かない。

<ヽ゚皿゚>「ガ……」

獣の挙動に、初めての動揺。
狂った様に頭を振り、手を振り回し、己の身を足蹴する。

それでも、収縮した筋肉が捕らえた牙は外れない。
どんなに足掻いても、もがいても、僅かたりとも動かない。

みちり。と、耳の下で糸が鳴る。
深まり、歪む笑みに、傷を縫い止める糸が限界を迎えた音だろうか。
それとも、糸が肉に食い込む音だろうか。

ただ、どちらであろうとも、関係ない。
この歪みは、止めようとした所で、既に止められるものではないのだから。

<ヽ゚皿゚>「ガ……ガグッ……」

( ∵)「……」

獣の振るった爪が胸板を薄く裂くと共に、空いた右腕を、弓を番える様に大きく引く。
突き放すように連続で放たれる蹴りが、腹筋にめり込むと共に、右掌を円錐の如く尖らせる。

それを放つ寸前、ぶちん。と、枷の外れる音。
己の口が、人の稼動限界を超えて広がり、

( ∵)「くぱぁ……」

獣の笑みを浮かべた。
獣よ、呪うならば自身の弱さを呪え。己と敵対した貴様の不運を呪え。



――呪う暇があれば、の話だが。



( ∵)「……」

<ヽ 皿 >「……」

訪れた、決着。

果肉を鈍器で圧し潰した様な音。
獣を穿ち抜いた右腕の先は血に塗れ、まるで獣の背面より産まれたかの様。

その血潮は熱く、肉は硬さと柔らかさを持ち合わせた感触。
大気に触れたばかりの血流の芳香は、脳を蕩けさせんばかり。

全てが、愛しい。
情欲の赴くままに、右腕を貫き通したままの獣を掻き抱く。

獣の身体が軋みを上げるのも構わず、両椀の輪の内より鈍き音が続くにも構わず。
ただ、物と成り果てた獣の感触が愛しき故に、力の限り抱く。

己が眼は既に獣を獣として映してはいない。
その身体から魂が失われた瞬間より、己が眼は過去を映し出していた。

( ∵)「イボ子……また会えたな」

獣を抱きしめたまま、愛した者の名を呟く。
あらゆる全てが違うのに、己の眼に映る骸は愛しき人のそれの様。

緩やかに失われる温もりも。

色を喪い始めた肌も。

徐々に硬さを持ち始める肉も。

至近より香る血潮も。

どれもが、あの時と同じように思える。

――だが、到れない。
どれほど骸を抱きしめても、最後のあの瞬間には到れない。

――どれ程の時間、躯を抱きしめていたのだろう。
気付けば抱いた獣の肉体は熱を失い、冷たく、硬くなっていた。

第十話『副題:掴んだ幻想は儚く消えて』糸冬


~良い子の必殺技講座第十回~

川 ∵)「十回目ー!ついでに間一ヶ月ゴエェェェ!ゲフッ!ガハァ!」

川 ∵)「必殺技:無し」

川 ∵)「……」
 _Δ_
ξ ∵)「中の人はゆっくりしね!」(∵ 川

川 ∵)「という訳で、次回も……おっと急用が出来てしまった」

川 ∵)「それでは失礼」


― = ヽ川 ∵)ノ


― = ヽ川#゚ -゚)ノ


川#゚ -゚)「お前ら!こんな顔をした奴を見なかったか!」

ヽ川#゚ -゚)ノ「バカモーン!ソイツは偽者だ!」

川#゚ -゚)ノシ「という訳で、次回もSTAND UP TO THE VICTORY!」ヾ(∵川

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Author:ひちょりまちょめ
コテ酉無しです。
でも一話の最後見たらすぐ分かる仕様です。

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