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( ^ω^)は28歳になったようです 二話

――失った存在はもう戻らない。
確信がある訳ではない。多分、きっと、そういった曖昧な予感でしかないが。
でも、今のボクがそれを取り戻したとしても、碌な結果にはならないだろう。

身体も心も大人になってしまったボクにとって、それは余りに荷が重い。
ボクはもう、齢を重ね過ぎてしまった。若き日の己に戻る事など、出来はしないのだ。

だから、ボクは見守る。
ボクが失った物を持て余す者達を。


二話『飛翔』

( ^ω^)「ありがとうございましたおー!」

声を張り上げながら客を見送る。
胸に抱くは感謝の気持ち。

ボクは高校卒業後、エロ本を初めて買った本屋『VIPマーケット』に就職した。
あの時のボクの様な、挑む者達の一助になれば、との思いからだ。
その思いは何度か揺らぎこそしたものの、未だこの胸にある。

だからこそ、ボクは入社以来レジの腕を磨き続けた。
エロ本をレジまで持ってきた者に全力で応え、その勇気に全身全霊を以って報いる為に。

レジなど誰にでも出来る仕事、と思われているだろう。
バーコードを読み取り、紙袋に詰め、料金を受け取るだけの単純作業。
その感想に、間違いは無い。おおよそその通りである。

――が、極めんとするならば果ては無い。

乱雑に置かれた本からバーコードを一瞬で見つける観察眼。
バーコードを寸分の狂いなく、高速で通す精密さ。
他の客や女性店員の視線を察知し、表紙が見えぬように袋詰めする状況判断能力。

細かなものまで合わせれば、体得せねばならぬスキルは数十――否、数百に至る。
それらを体得するまでに、何度苦渋を呑んだだろうか。
自身に限界を感じ、何度諦めようとしただろうか。

もたつきのせいで客から叱られた事もある。
狂人の如き形相のクレーマーから、ヒステリックな罵声を浴びせられた事も幾度となく在る。

しかし、諦める事など出来なかった。出来る筈が無かった。
ボクが膝を折らんとする度に、叱責し、鼓舞してくれた者がいたから。
己が選んだ道であるからこそ、譲れぬ意地があったから。

そして――もう一つ。

(;><)「あ、あの……」
/つ□と

( ^ω^)「はいっ!なんですかお!」

ボクの眼前には、小さく震える少年。
その手には、一冊のエロ本。

少年とボクの視線が重なる。
彼の目は潤みを帯び、今にも涙が頬に跡を残さんばかり。
それでも彼は、小さく震えながらも、視線を外そうとはしない。

(;。><) 「お、おねがいするんです!」

( ^ω^)(……強く、なったお)

ボクは、その視線と言葉、そしてエロ本に頷きを返す。
寸分の狂い無くバーコードを読み取り、本を紙袋にて梱包。
その一秒にも満たぬ間に、ボクは彼がここに至るまでを振り返っていた。

彼が初めてエロ本コーナーに一瞬、ほんの一瞬だけ視線を向けたのは、半年ほど前。
その時丁度当番だったボクは、そのさり気ない仕草で気付いた。
彼もまた、その場所に魅入られてしまったのだと。己と同じ道を歩まんとする者なのだと。

その読みは当たっていた。そもそも外れる筈が無い。
今まで幾人も同じような者を見守り続けてきたのだから。

彼がここに至るまでの道程は、長く、険しいものであっただろう。
同年齢の平均よりより明らかに劣る体格と身体能力。エロ本に触れる前から涙を溢しかける脆き心。
正直に言えば、諦めるか万引きと云う暗黒面に堕ちるかのどちらかと思っていた。

それでも、彼は乗り越えた。
絶望的とすら呼べるハンデを、今この時、乗り越えて見せたのだ。

( ^ω^)「1200円になりますお」

(;。><) 「ちょ、ちょうどなんです」

( ^ω^)「はい、ちょうどですお」

これが――今この瞬間こそがもう一つだ。
人の成長を、この目で見る事の喜びを知ってしまったボクが、この仕事を辞められる筈が無かった。

(*><) 「や、やっと買えたんです!」

( ^ω^)「またおこしくださいませおー」

紙袋を両手で抱きしめて、少年は入り口へと走っていく。
つい先ほど、彼は、ボクの目の前で、壁を乗り越えた。
今この時、大人への階段を一歩踏み出したのだ。


二話『副題:只一つの憂慮は、彼の買った わぁい! が男の娘本である事を知っているかどうかなのだ」

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一歩どころか大股で三段くらい抜かしてるな
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Author:ひちょりまちょめ
コテ酉無しです。
でも一話の最後見たらすぐ分かる仕様です。

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